睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、睡眠中に大きないびきをかきながら、繰り返し呼吸が止まるまたは弱まる現象です。この状態で、1時間に5回以上、10秒以上の呼吸停止や低呼吸が発生します。この症状が毎晩、長期間にわたり続くと、心臓・血管系の病気や生活習慣病と関連してきます。特に高血圧は、狭心症、心筋梗塞などの冠動脈疾患や脳卒中のリスクも高まります。
また、睡眠中に無呼吸による低酸素状態が生じると、脳が覚醒して呼吸を再開させますが、これが頻繁に繰り返されると、睡眠不足に陥ります。その結果、昼間の過度の眠気や倦怠感、起床時の頭重感、気分の落ち込みなどが生じ、日常生活や仕事の効率が低下し、性格の変化が見られることもあります。そして睡眠不足などによる運転時の事故率は正常な状態と比較して約2.6倍にも上がると報告されています。
このようにSASは、個人の健康だけでなく公共の安全にも影響を及ぼす病気とも言えます。
原因
睡眠時に呼吸困難になる主な理由は、空気の通り道である気道が閉塞することにあります。
その原因は主に「肥満」が関与しています。体重が増加すると、喉周辺に脂肪が蓄積し気道が狭くなります。さらに仰向けに寝ると、気道がさらに狭まり、それを通る空気が大きないびきの原因になります。気道が完全に閉じると無呼吸が発生します。
実際には、睡眠時無呼吸症候群(SAS)に罹患している患者の60%以上が肥満体型ですが、この病気は肥満の人だけにみられる病気ではありません。
細身の人でも、下顎が小さかったり後退していたり、扁桃腺や口蓋垂が肥大している場合には、気道が狭くなる傾向があり、それがSASを引き起こすことがあります。そのため痩せ型の人にも注意が必要です。また、閉経後に、SASの発生リスクが上昇するという報告もあります。
症状
「大きないびき」と「無呼吸」の他に以下のような症状がみられます。
- 口やのどの渇き
- 熟睡感がない
- 夜間の睡眠中によく目が覚める(息苦しくなって目覚めることもあります)
- 居眠り
- 起床時の頭痛や慢性的な疲労感
- 集中力の低下 など
命にかかわるが、自分自身では気づきにくい病気
日本において推定される睡眠時無呼吸症候群(SAS)の潜在的な患者数は900万人を超えるとされていますが、実際に治療を受けているのはそのうち約10%に過ぎません。この低い治療率は、主に病気が睡眠中に発生するため、患者自身がその存在に気付きにくいことが原因です。
この病気の怖いところは,睡眠中の低酸素や日中の眠気などによるストレスのために、「高血圧、脳卒中、不整脈、心筋梗塞などの虚血性心疾患」の発生を増加させることです。低酸素と睡眠不足が引き起こすストレスは、糖の代謝に関わるインスリンなどのホルモンの機能不全を招き、「糖尿病」や「脂質異常症」の原因となることもあります。これらの合併症により、突然死される患者さんもおられます。我が国の睡眠呼吸障害研究会の検討でも(2000年)では,後に示す無呼吸低呼吸指数が20以上の患者さんでは、20未満の患者さんに比較して、明らかに寿命が短いことが報告されています。さらに,昼間の眠気は様々な事故につながります。ですから,この病気を正確に診断し,必要に応じて治療を行うことは重要です。
検査方法
①簡易検査:アプノモニター
②精密検査:終夜ポリソムノグラフィー(PSG)
簡易検査で睡眠時無呼吸の可能性が高く、さらに詳しい検査が必要と判定された方は、本検査を行います。この検査はポリソムノグラフィー(PSG)と呼ばれ、指先の器械だけではなく、心電図や脳波、鼻や口の気流測定、腹部の動きなどを見るセンサーなどを装着していただき、一晩休んでいただきます。1泊2日の入院での検査が必要となり、いびき音の測定なども行われるため通常は個室を使用して行います。結果は2~3週間程度で判明します。費用は、個室代を含めて、保険診療で¥30,000~40,000程度かかります。少しお金がかかりますが、重症度やタイプなどが詳細にわかるため、診断確定には本検査が必要です。
診断の流れ
(フクダ電子様運営のSASnetより引用)
治療方法
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療は患者の重症度に基づいて行われます。
簡易検査で無呼吸低呼吸指数(AHI)が一時間で40回以上、または精密検査でAHIが20回以上の方は重症と判断でき、経鼻的持続陽圧呼吸(CPAP)の治療をお勧めします。この治療方法はその効果と安全性が確認されており、現時点で主たる治療法となっています。
軽度から中度の症状の場合、「マウスピース」を使用するのが一般的です。これは睡眠中に口に装着して気道を開けておくためのものです。その他、肥満症の方はダイエットを行ったり、寝る向きや飲酒・喫煙などの生活習慣の改善に取り組んで頂きます。
CPAP(経鼻的持続陽圧呼吸)療法とは
睡眠中に鼻にフィットするマスクを装着して適切な圧力の空気を供給し、気道を開かせる治療がCPAP療法です。
この治療を始めた多くの患者さんは、「睡眠の質が向上した」と感じていますが、装置の感覚により睡眠が困難な場合もあり、そうした場合はマウスピースを使用した治療に切り替えることもあります。また、「鼻炎」や「副鼻腔炎」など鼻の病気があるとCPAPの効果が制限されるため、必要に応じて耳鼻咽喉科での治療を受ける必要があります。
医療機器はご自宅に設置し、月1回の通院で治療効果を見ていきます。機器についてはメーカーが設置やメンテナンスを担当致しますので安心して使用いただけます。
自身が睡眠時無呼吸症候群に気づくためには
睡眠時無呼吸症候群は発見が難しい病気であり、多くの場合、他人によって大きないびきを指摘されて初めて受診することになります。特に一人暮らしの場合、自分ではいびきを自覚しにくいものです。もし「日中の過度の眠気」や「深い睡眠が得られない感じ」、「持続的な倦怠感」、「睡眠中の呼吸の苦しさ」、「夜間の頻繁なトイレの利用」などの症状が見られる場合は、睡眠時無呼吸症候群を疑うべきです。これらの症状が見られる場合には、ぜひ当院までご相談ください。
日常生活で気を付けること
睡眠時無呼吸症候群(SAS)と診断された場合、睡眠薬の使用には慎重になる必要があります。これは睡眠薬が気道の閉塞を引き起こすことがあるからです。薬を服用する際は必ず主治医に相談してください。また、寝酒や喫煙も気道の閉塞を促進するため、避けることが望ましいです。さらに、肥満もSASの主な原因の一つであるため、適切な食事と運動によって肥満を予防し、改善することが重要です。
Q&A
睡眠時無呼吸症候群とは何ですか?
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、睡眠中に呼吸が一時的に停止したり、極端に浅くなることが繰り返し発生する状態です。特に、気道が部分的または完全に閉塞して呼吸が10秒以上停止する現象を無呼吸と呼びます。睡眠の検査で、呼吸が止まったり、浅くなったりする回数(無呼吸低呼吸指数;AHI)が1時間に5回以上発生または7時間の睡眠中に30回以上ある方は睡眠時無呼吸症候群と診断されます。一般的には、この回数が20回以上に増えた場合に、鼻マスクによる持続陽圧呼吸療法(CPAP)の適応になると考えられています。 外来でできる簡易的な検査でもAHIが40回以上あれば、CPAPの適応と判断できます。
睡眠中に大きないびきをかいて苦しそうだと言われますが、これは何かの病気ですか?
睡眠中に激しいいびきをかくことは、潜在的な健康問題の兆候である可能性があります。これは特に、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の症状の一つです。この状態では、気道が一時的に閉塞し、呼吸が中断されることが繰り返されます。この結果、十分な休息を得られず、日中の過度の眠気や疲労感を引き起こすことがあります。睡眠中のいびきが非常に大きく、苦しそうであれば、専門医に相談し、適切な診断と治療を受けることをお勧めします。
いびきをかく原因は何ですか?
主なものは気道の一部が狭まることです。これは、睡眠中に筋肉がリラックスし、舌やその他の軟組織が喉の奥に落ち込むことで起こります。その結果、空気の流れが阻害され、振動していびきの音が発生します。肥満、アルコール消費、鼻の問題、睡眠姿勢などもいびきの原因となり得ます。また、構造的な問題、例えば扁桃腺の肥大や顎の構造も影響を与えることがあります。
いびきは「ぐっすりと眠っている証拠」ではないのですか?
いびきが必ずしも健康的な睡眠を意味するわけではありません。いびきは、呼吸道が狭くなることで空気の流れが制限され、その結果発生する音です。これは、十分な酸素が体内に供給されていないことを示している可能性があります。
いびきをかいて息苦しさを感じているにも関わらず、どうして目を覚まさないのでしょうか?
いびきをかいている際、気道が部分的に塞がれることで窒息に近い状態になりますが、眠りが浅くなることで喉の筋肉が緩み、気道が開いて再び呼吸が可能になります。このサイクルが繰り返され、深く眠ろうとするたびに窒息感によって一時的に覚醒し、呼吸が回復すると再び眠りにつくという状況が続きます。このため、患者は深い睡眠に入ることが難しくなります。
いびきの間に呼吸が止まることがあると言われたことがあります。これは病気の可能性があるのでしょうか?
いびきの間に呼吸が10秒止まる場合は、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の可能性があります。そのまま放置すると、心血管疾患や日中の過度の眠気など、様々な健康問題を引き起こすリスクが高まります。症状が見られる場合は、睡眠医療の専門医に相談することをお勧めします。
どんな症状が現れますか?
症状には、大きないびき、朝の頭痛、身体がだるい、日中の過度の眠気、集中力の低下性欲減退が含まれます。また、夜間に何度も目が覚めることや、息苦しさで目が覚めることもあります。これらの症状は、睡眠の質の低下を招き、全体的な生活の質にも影響を与える可能性があります。
これらの症状がある場合は、一度専門医に相談することお勧めします。
睡眠時無呼吸症候群によって引き起こされる問題は何ですか?
睡眠時無呼吸症候群は主に「慢性的な睡眠不足」を引き起こす症状で、次のような問題が生じます。
- 自覚症状として
日常生活での持続的な疲労感、集中力の低下、昼間の過度な眠気が挙げられます。これにより、仕事中や運転中に眠り込んでしまうことがあり、事故のリスクが高まります。特に、日常的な仕事の効率が低下し、業績の悪化や重要な判断ミスを引き起こすこともあります。 - 健康への影響
睡眠時無呼吸症候群は全体的な健康にも深刻な影響を及ぼし、特に高血圧、心臓病、糖尿病、脳卒中などのリスクを高めます。慢性的な酸素不足はこれらの疾患を誘発し、最終的に寿命の短縮にもつながる可能性があります。これにより、家族にとっても大きな心配事となり得ます。
自分には自覚症状がないため、治療の必要性を感じないのですが?
睡眠時無呼吸症候群は自覚症状がないことも珍しくありませんが、治療の必要性は高いです。無呼吸による繰り返しの低酸素状態は、心血管疾患や代謝性疾患のリスクを高め、長期的な健康問題につながるためです。無症状でも定期的な健康診断で異常が見られたり、周囲からいびきや呼吸停止が指摘されている場合は、専門医の診断を受けることをお勧めします。
太ってはいないので、発症しませんか?
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は肥満の人に多いですが、肥満でない人でも小さい顎や後退した顎、大きな扁桃腺などが原因でやせた人が発症することがあります。また、若くても、年を重ねるごとに筋肉の緊張が低下し、気道が狭まるため発症することがあります。
もし睡眠時無呼吸症候群だと疑われる場合、どのような対応をとるべきですか?
睡眠時無呼吸症候群の疑いがある場合は、まずは専門医に相談することが重要です。初診では、いびき、日中の過度の眠気、夜間の頻繁な目覚めなどの自覚症状を詳しく医師に伝え、必要に応じて睡眠検査を受けましょう。この検査は自宅で行うタイプと病院で実施するタイプがあり、呼吸の状態、心拍数、酸素飽和度などを一晩中モニタリングします。結果に基づき、適切な治療法が提案されます。
睡眠時無呼吸症候群の検査中に不快感や痛みは伴いますか?
検査は無痛で、特別な不快感を伴うことはありません。主に睡眠中の呼吸パターンや酸素レベルを記録する装置を体に装着するだけですので、安心して受けていただけます。
検査に入院は必要ですか?
睡眠時無呼吸症候群の確定診断のための検査には入院しての睡眠検査が行われます。患者の仕事等への影響を最小限に抑えるために配慮されています。詳細は担当医に相談してください。また、自宅での検査が可能な「簡易型ポリソムノグラフ」も利用できますが、機種によっては感度が低い場合があり、病気が見逃されるリスクも伴います。
治療方法はありますか?
睡眠時無呼吸症候群には重症度ごとに治療方法があります。
軽度から中等度の症状の場合、マウスピースを使用して気道を開く方法があります。
重度の場合は、CPAP(シーパップ)療法が効果的で、鼻マスクを装着し、睡眠中に気道を開くために一定圧の空気を送り、のどが塞がれるのを防ぎます。
CPAPを使用する状況ではない方でも出来ることはあります。
- 毎日の生活で出来る原因除去から始めましょう。
第一に、肥満の方はダイエットを頑張りましょう。
肥満の方は上気道周囲の脂肪により上気道が狭められているため、無呼吸が起こりやすくなっています。
減量によって首回りの脂肪が減ると上気道が大きくなり、無呼吸は起こりにくくなります。 - 傾斜マクラ・口テープ
睡眠中の体位の工夫は有効です。
軽症の睡眠時無呼吸症候群ではうつぶせまたは横向けで寝ることが有効な場合があります。マウスピースなど(歯科的装具) の利用も有効です。 - 耳鼻咽喉科的手術
扁桃腺・アデノイドの大きい方は扁桃腺・アデノイドをとる手術が有効なことがあります(上気道が広くなります)。
手術適応については、耳鼻咽喉科にて診察を受けていただいた上で検討します。
また、鼻閉により無呼吸は悪化します。そこで耳鼻科で鼻疾患(アレルギー性鼻炎、 蓄膿、鼻茸、下鼻甲介肥大、鼻中隔弯曲など)についての診察を受け、治療を受けることも大切です。 - 生活習慣の改善指導(減量、節酒など)
無呼吸の誘因となる就寝前の飲酒、睡眠剤をやめる。
(睡眠中の空気の通り道を開く筋肉の弛緩をひどくするため。)
人によって最適な治療法が異なりますので、専門医にご相談ください。
鼻の手術や鼻の穴を広げる治療で症状は改善されますか?
鼻の手術や鼻の穴を広げる治療は、鼻の通気が改善され、いびきの減少や睡眠の質の向上が期待できますが、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の主な障害部位は「のど」であり、鼻自体が原因ではありません。
鼻づまりがSASを悪化させることがありますが、鼻の治療だけで症状が良くなることはあまりありません。ただし、他の治療法と組み合わせることで、鼻の治療が効果を示すことがあるため、詳しくは専門医にご相談ください。
過去に睡眠時無呼吸症候群の診断を受け、治療のため手術を行ったにも関わらず、症状が戻ってきたと家族から指摘されています。再発したのでしょうか?
手術による治療はCPAP(経鼻的持続陽圧呼吸)療法が導入される以前から実施されてきましたが、その成功率の低さや一時的に治ったように見えても症状が戻るケースがしばしば見られています。そのような場合、通常はCPAP療法の実施が推奨しています。
手術治療を行ったのに症状が改善されない、症状が戻ってきたと周囲から指摘された方はCPAP療法ができる専門の医療機関の受診をお勧めします。