胃がんについて
胃は内側から粘膜、粘膜筋板、粘膜下層、固有筋層、漿膜で構成されており、胃がんは胃の粘膜にできるがんのことです。粘膜から粘膜下層までにとどまっているがんを早期胃がんと呼び、固有筋層より深い層まで浸潤したがんを進行胃がんと呼びます。早期発見をすることにより多くの場合治癒できます。進行するにつれて、がん細胞は胃壁を越えて周囲の組織へと広がり、隣接する臓器にも転移する可能性があります。
がん細胞はリンパ液や血液を介して他の部位に転移することがあります。特にリンパ節転移は、胃がんの転移で最も多いもので、早期の胃がんでもリンパ節転移を起こすことがあります。進行がんの一部では腹膜や肝臓への転移が見られることもあります。
特に注意が必要なのは、胃壁内に広がり、粘膜の表面には現れないスキルス胃がんです。早期での発見が難しいため、がんが進行した状態で見つかることが多いです。
診断技術と治療方法の向上により、胃がんは治療可能ながんの一つとされていますが、治療方針はがんの進行度に応じて決められているため、進行したがんでは治療が難しいケースもあります。
患者数について
胃がんは世界の中でも日本や韓国で多い病気です。日本国内では、東北地方の日本海側で高く、南九州、沖縄で低い傾向にあります。胃がんはかつて日本人のがん死亡率の第1位でしたが近年減少にあり、2022年厚生労働省の部位別がん死亡率では男性では肺がん、大腸がんを下回り第3位、女性では第5位で男女合わせて死亡者数は4万人を超えています。しかし、胃がんの罹患数に関しては、人口高齢化の影響で非常に増えており、2019年に診断された人は男性で約8.5万人、女性で約4万人となっています。つまり胃がんになる患者さんは増加していますが、完治される人が多いため死亡数はあまり変わっていないのが現状です。この変化は胃がんの早期期発見・早期治療の進歩が著しいためと考えられます。
胃がんの原因・症状
胃がんを引き起こすリスク要因にはいくつかが知られており、その中には喫煙や塩分、飲酒過多などの生活習慣、長期にわたるヘリコバクター・ピロリ菌の感染が含まれます。
なお、日本人のヘリコバクター・ピロリ菌の感染率は中高年層では高く、若年層では低い傾向にありますが、全ての感染者が胃がんになるわけではありません。
また一般的な予防策としては禁煙、塩分の過剰摂取を避ける、野菜や果物を十分に摂るなどが推奨されています。
胃がんの初期症状として
嘔吐、吐血、下血、食欲低下、体重減少などの症状が出現することがありますが、これらは胃がんに特徴的な症状ではありません。症状がなく健康診断で発見されることもあります。最近では検診として胃のバリウム検査ではなく、胃の内視鏡を行うことも多くなってきており、早期に発見されることも増えてきました。
症状がある場合には様子を見るよりも早めに医療機関への受診をお勧めします。軽度の胃痛や食欲不振などの症状でも、内視鏡検査などを通じて、偶発的に早期の胃がんが発見されることがあります。進行した胃がんの場合、食欲不振、胃痛、体重減少、便が黒い、胃がんの部位によっては食事のつかえがみられるなどの症状がでてきますが、これらが現れた場合は早めに医療機関に受診しましょう。
胃がんの診断法
主に行われるのは胃のX線検査(バリウム検査)と内視鏡検査です。また、がんの進行度や他の臓器への転移を確認するために、胸部X線、腹部エコー、CT、MRI、PET-CTがあります。
検査項目 | 検査内容 |
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胃X線検査(バリウム検査) | バリウムを飲んで胃の形状と粘膜の様子をX線画像で確認します。手術前に内視鏡検査とともに胃の状態を詳しく調べるために用いられますが、最近では内視鏡の進歩により、内視鏡検査が主流になっています。 |
内視鏡検査(胃カメラ) | 口または鼻からファイバースコープを挿入し、胃内部を直接観察します。疑わしい部位から組織を採取して病理検査することで、がんの範囲や深さを確認します。 |
CT検査、MRI検査 | CTはX線を用い、MRIは磁気を用いて体内を撮影し、がんの広がりや転移の有無を調べます。これらの検査は治療計画を立てる前の重要な手段です。 ※検査で造影剤を使用するため、アレルギーのある方は、事前に医師に申告してください。 |
PET-CT検査 | 体内に取り込まれるブドウ糖と似た放射性フッ素を含む薬剤を注射し、その取り込みの分布を画像で捉えることで、がん細胞の活動を検出します。この検査は他の方法で診断が困難な転移や再発を探る際に行われます。 |
胃がんの治療
胃がんの分類
胃がんは、深さにより「早期胃癌」と「進行胃癌」に分けられます。早期胃癌はがん細胞が胃の粘膜下層まで達している状態を指し、進行胃癌はそれよりも深い固有筋層を超えた場合を言います。がんが胃壁の内側から外側へと進行するにつれ、転移のリスクも高まります。治療は、精密な検査結果に基づき病期が確定された後に方針が決定されますが、開腹手術中に初めて転移が発見されることもあります。
外科手術
胃がんの主な治療方法は、外科手術です。手術では、がんのある部分の胃とそれに隣接するリンパ節を除去します(リンパ節郭清)。がんの位置と病期に基づき、胃の一部または全体が切除されます。場合により、消化管再建が行われます。
内視鏡治療
胃がんの初期段階で、がんが浅い場合やリンパ節への転移リスクが非常に少ない場合には、内視鏡的粘膜切除術(EMR)や内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)が行われます。
これらの治療後には、病理検査により切除が十分にできているか、転移がないかを確認します。転移の可能性やがん細胞の残存が疑われる場合は、追加で胃の切除手術が行われることがあります。
抗がん剤による治療
抗がん剤を用いた胃がん治療には補助化学療法と化学療法があります。手術後に行う補助化学療法は手術単独では除去しきれなかった微小ながん細胞を対象に行われ、特にステージII期およびIII期の方を対象にしております。一方、手術での完全な治癒が見込めない場合には、生存期間の延長や症状の管理を目的とした化学療法が施されます。
使用される主な薬剤には以下のものがあります:
- フルオロピリミジン系薬剤(フルオロウラシル[5-FU]、S-1、カペシタビンなど)
- プラチナ系薬剤(シスプラチン、オキサリプラチン)
- タキサン系薬剤(パクリタキセル、ドセタキセル)
- 塩酸イリノテカン
これらは単独、または組み合わせて使用されます。さらに、約10~20%の胃がんではHER2(ハーツー)と呼ばれるタンパク質が関与しているため、HER2が陽性の場合にはトラスツズマブを含む分子標的薬を使用する化学療法が行われます。
なお、化学療法による副作用は個人差があるため、治療は副作用の管理をしながら慎重に進められます。また、新しい治療法の適用を目的とした臨床試験への参加も一つの選択肢です。
末期の胃がんに対する治療方法
末期の胃がんでは、全身に転移が見られることが多く、根治的な手術は困難です。主に抗がん剤による化学療法が適用され、症状や転移状態に応じて胃の一部を切除する手術や、食道をつくるバイパス手術が行われることがあります。